届かない手紙


葡萄色(えびいろ)に染まる空の下、 

少女は手紙がたくさん詰まったカバンを手に、

 流れゆく世界のなか立ち止まる。 

目に映ることはいつだって 

捕まえられないことを知っている。 

それでも、宵が訪れると同時に、 

往き交う人々から顔が消えていくことに、 

こころの奥で焦りを感じずにはいられない。  


そんな現実は、泡のようだと少女は思う。 

ぱちんと弾け、消えていく。 

かりそめのもの。 

いつどこで消滅するのかもわからないまま、 

絶え間なく生産されてゆく。 

きっと、世界の中にシャボン玉があるのではなく、 

無数のシャボン玉の中に世界があるのだと。  


でも、少女の手紙だけは、ずっとカバンの中。 

少女の体からスルスルと抜け出したことばたちが、 

白い紙の上で、いつかの心情を描きつづけている。 

必ず始まり、絶対に終わるひとつの体験を。

 時間を伴ってただそこに。 

でも触れられないくらい遠くに。  


少女は問いかける、 目の前で消えていく泡沫の世界に。 

彼女の手紙の届け先は、 

送りたいと思ったあの人と、今も同じ人なのだろうか。 

手紙を書いた自分は、あの時と同じ人物なのだろうか。 

少女は真実を確かめられないまま。 

届けられない手紙は、 

膨らんでいくカバンの中で、 いつまでもひしめきあって。 

ART LIFE

自分らしく生きる、 生き方をアートする。